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アメリカ・ミズーリ州幼児教育施設訪問(前編)

2024/01/26

アメリカ・ミズーリ州幼児教育施設訪問

~子どもたちが主体、遊びの中に「狙い」がある保育~

(前編)

ちとせ交友会 統括園長の山口和代です。
昨年、アメリカ・ミズーリ州の幼児教育施設の視察に行ってきました。その中でも特に学びが多かった、ミズーリ大学にある児童発達研究所(The University’s Child Development Lab)、グラント小学校(Grant Elementary School)での保育や教育について、お伝えします。

「ハイスコープカリキュラム」を軸とした幼児教育

今回見学したミズーリ大学の児童発達研究所とグラント小学校は、「ハイスコープカリキュラム」を主軸とした教育を行っています。

 

「ハイスコープカリキュラム」とは、発達心理学者ジャン・ピアジェの発達理論や教育学者のジョン・デューイの教育哲学をベースにして、心理学者のデイヴィット・ワイカートらが1960年代に開発したものです。

 

1960年代にアメリカ・ミシガン州において、経済的に恵まれない子どもたちを対象にした調査「ペリー就学前計画」で、ハイスコープカリキュラムが用いられました。「質の高い幼児プログラム(ハイスコープカリキュラム)」に「参加したグループ」と「不参加のグループ」の2つに分け、40年以上に渡り追跡調査したものです。参加したグループは不参加のグループと比べ、IQ、経済状況、健康状態など、長期に渡り良い結果が出ていることがわかりました。

 

なお、ハイスコープカリキュラムは、OECDにより「科学的根拠のある世界5大幼児プログラム」の中の一つとして挙げられていますOECD, 2004)。

「Plan Do Review」遊びの狙いを定め、発達を促す

ハイスコープのカリキュラムは、アクティブラーニングでの学びが中心になっています。先生は「重要発達指標(KDIs)」に沿って、子どもたちの発達が促せるよう保育の計画を行っていきます。

 

中でも「Plan Do Review」の取り組みは印象的でした。子どもと先生が一緒に遊びの活動内容を決めていきます。そして活動の後、「振り返り」をすることがデイリー(一日の活動計画)の中に組み込まれているのです

 

振り返りの時間で使われていた表。活動の中で足し算が学べる工夫がされています。

 

具体的にいうと、先生は「あなたは今日何して遊びたい?」と一人ひとりの子どもに聞いて、遊びの内容を一覧表に書いていきます。活動の後は、遊びの中の気づきをグループでシェアしたり、クラスのみんなに報告したり、様々なものへの興味がクラス全体で広がるような取り組みがなされていました。

 

ちとせ交友会では、「自分で考えさせながらやってみる」というピアジェの構成論の保育を長年行っています。見学した園でも同じく「子ども自身が興味あることを選び、失敗から学ぶ」ことが重視されていました。そして、その振り返りの時間が設けてあり、学びに繋げられるようになっていることがちとせとの違いです。

 

ラージグループタイム、スモールグループタイム、プランニングタイム(遊びの計画を立てる時間)、ワークタイム(計画を実行する時間)、リコールタイム(遊びの振り返りをみんなでする時間)など、日本のデイリーよりも時間が細かく決められていることも特徴です。

 

各クラスにモニターがあり、IT化が進んでいる園内。モニターの下には一日の活動内容の掲示物。紙のサイズが時間の長さと比例しており、わかりやすいと感じました。

子どもは「一人の人格を持つ人間」

先生たちの子どもへの語りかけの態度や雰囲気を見て、人権への配慮や意識の高さを感じました。「あなたは小さな子ども」という対応ではなく「一人の人格を持つ人間」としてコミュニケーションを取っていました

 

例えば、子どもらしいわがままな要求に対して、「あなたはそう思うのね」とまずは受け止める。そして子どもと話しながら「他のアイディアはないかな?こんな方法も楽しいかもよ」と提案している場面を目にしました。先生の穏やかで楽しい雰囲気は、子どもの情緒の安定に効果があるような気がします。見学している私たちも、和やかで居心地のよいクラスの様子にとても癒されました。

心のケアができる環境作り

「ピーススペース」と呼ばれる一人になれる空間は、日本の保育施設では見られないものでした。3歳ごろから自分のやりたいことがはっきり出てきて、それが原因で友達とぶつかるケースが増えてきますよね。そのような場合、ピーススペースで気持ちを整理して、落ち着いたら自分のタイミングで活動の場に戻ってくるという使い方がされていました

 

ピーススペースには、子どもが一人でこもれるような大きな洞窟のようなブロックがあり、落ち着けるように薄暗くライティングしてあります。指でなぞりながら呼吸を整えて気持ちを整えるブリージングボードや、ギュッと潰せるボール、触ると落ち着ける人形が置いてありました。また、フィーリングに関する絵本、いろんな表情の人形が置いてあり、うまく感情を言語化できない子が自分の気持ちを表現できるような教材が揃っていました。

 

感情を表現するための人形

 

フィーリングに関する絵本

 

自分や友達の気持ちをじっくり考えることは、社会情緒的な発達に繋がります。そのために、教室にこのような一人で落ち着いて考えられる空間を取り入れるのもいいですね。

 

また、BGMを効果的に使っているのにも驚きました。落ち着いて集中するときの音楽、踊ったり体を動かしたりするときの音楽など活動によってBGMを変えていました。BGMにより、子どもたちは自然にすっとそのモードに入っているように感じました。

 

ライトやBGMの使い方一つで、子どもが落ち着いて活動できる空間は作れるんだなと学びました。

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